人工授精(AIH)とは?流れや費用は?平均総額やタイミングについて
【医師監修】不妊に悩むカップルは少なくありません。ただ、人工授精となると、治療法、治療期間、費用などと、わからないことだらけです。人工授精(AIH)とは?流れや費用は?平均総額やタイミングについて、ドクターのアドバイスを交えて説明します。参考にしてください。
人工授精(AIH)とは?
人工授精とは、精子を子宮内へ直接注入し、卵子と精子が出会う確率を高める生殖医療技術のことです。人工授精というと作為的に人の手で卵子と精子を受精させ妊娠に結び付けるイメージを抱きがちですが、人工授精はあくまで受精のサポートをする治療法です。
このため、卵子と精子の受精の成功率はそれぞれの生命力にかかっており、人工授精を行えば必ずしも妊娠できるというわけではありません。
カズヤ先生
産婦人科医
人工授精(AIH)の適応は、子宮頸管(けいかん)因子という、子宮の入り口に精子を通りにくくする因子がある患者さんには非常に良い方法です。 具体的には、排卵日付近で膣内に放出された精子を子宮腔内に運ぶ手助けをする子宮頸管粘液というサラサラの液体の分泌が少ない人には、人工授精は良い方法です。 また、抗精子抗体という精子をやっつけてしまう抗体を持っている方にも有効です。
人工授精のやり方
人工授精のやり方は、膣外射精で出した精子を遠心分離機にかけ元気な精子を集め、細いカテーテルを用いて女性の子宮内部まで直接送り込む補助を行います。これによって普段の性交渉の時よりも効率的に子宮内部に元気な精子が行き届くので、排卵日付近に性交渉を持つタイミング法よりも高い妊娠率を狙う事が出来ます(※1)。
人工授精には2種類あります
人工授精には2種類の方法があります。そのうち配偶者(夫)の精子を利用する場合を「配偶者間人工授精(通称AIH=Artificial Insemination by Husband)」と言い、配偶者以外の男性から提供された精子を利用する場合を「非配偶者間人工授精(通称AID=Artificial Insemination by Donor)」と言います。
タイミング法から人工授精へステップアップ
不妊治療では、まず排卵日付近で性交渉を持つことで妊娠を目指すタイミング法を行います。それでも妊娠できなかった場合に人工授精にステップアップするという流れが一般的です。
(タイミング法については以下の記事も参考にしてください。)
ステップアップの目安は?
タイミング法の妊娠率は、健康体である男女の1周期あたりの場合、年齢にもよりますが約20%といわれています。一般的に病院で指導されたタイミング法を6周期行っても妊娠に至らない場合は、その後もタイミング法での妊娠率は低いといわれています。人工授精にステップアップをするように勧められることが多いです。
さらに高度な不妊治療法へ
人工授精を6周期行っても妊娠に至らない場合には、さらに高度な不妊治療法である「体外受精や顕微授精」へのステップアップも視野に入れる事になります。高度不妊治療では総額で30万から50万円程かかります。
体への負担も金銭的負担も大きい治療法になるので、人工授精の段階で妊娠できるように不妊治療は早めに取りかかることをおすすめします。
人工授精にステップアップする事でかかる費用
タイミング法から人工授精にステップアップする際の費用は様々です。ステップアップ時には、一通りの検査を受ける必要がある病院もあります。
検査の流れとしてはエコー検査、ホルモン検査、感染症検査などが多いです。検査費用の総額は、これらの検査を受けるか、また保険適用か自費かによっても大きく変わってきます。
人工授精での妊娠率
一般的に人工授精を行うのは、タイミング法で妊娠に至らなかった場合です。複数回のタイミング法で妊娠出来ないということはそれだけもともとの妊娠率が低いという事なので、不妊カップルの人工授精1周期あたりの妊娠率は平均して5~10%程といわれています(※1)。
5~10%と聞くととても低い確率に思われますが、不妊カップルのタイミング法での妊娠率は約2~3%程と言われています。それと比べると人工授精は不妊カップルにとって、とても有効な治療法といえるでしょう。
カズヤ先生
産婦人科医
逆に言えば、人工授精1回で10%前後の確率で妊娠するので、5〜6回行っても妊娠しなかった場合は次の高度不妊治療へのステップを考慮していきます。
(人工授精については以下の記事も参考にしてください)
女性起因による不妊の場合の人工授精
女性起因による不妊で、人工授精を行う場合どのようなケースが考えられるでしょうか。人工授精が効果的とされる代表的な不妊の原因と、それらの原因を発見できる検査と費用について説明します。
女性起因による不妊の場合【フーナーテストで分かる原因と検査費用】
フーナーテストで分かる原因と検査費用は次の通りです。
フーナーテストとは「性交渉の後に子宮内にいる精子が運動しているかどうか」を女性の頸管粘液を採取して調べる検査法です。この検査結果で運動している精子が極端に少ないなどの場合、精子と「子宮内の環境」の相性が良くないという事が分かります。この時の女性側の主な要因としては以下が考えられます。
●子宮頸管粘液の質が悪い
●抗精子抗体を持っている
ただ、精子はとても繊細なもので睡眠不足やストレスなどで大きく影響を受けるものです。1回の検査結果だけで判断せずに、何度か受けてから判断することが大切です。検査自体はほんの数分で終わり痛みを感じる事はほとんどありません。検査費用は保険適用で平均して300円から500円程です。
女性起因による不妊の場合【頸管粘液検査で分かる原因と検査費用】
頸管粘液検査で分かる原因と検査費用は次の通りです。
頸管粘液検査では、その量や粘り、phなど頸管粘液が正常かどうかを調べます。頸管粘液とはおりものの事で、卵子と精子の受精を補助する役割があります。膣内で射精された精子が卵子に向かって進む際、頸管粘液は精子が子宮内へと進みやすいようにします。そのため、頸管粘液が少ないと子宮内に届く前に精子が死んでしまい受精できません。(※1)
体へのリスクもなく、手軽に受けられる検査です。排卵日付近のおりものの量が少ないと感じる方は、ぜひ病院で相談してみましょう。検査費用は保険適用で平均約500円程です。
女性起因による不妊の場合【血液検査で分かる原因と検査費用】
血液検査で分かる原因と検査費用は次の通りです。
血液検査では、女性が抗精子抗体を持っているかを調べます。女性側に抗体があると、精子を異物とみなし膣内より先へは受け入れなくなります。このため精子が子宮内へ侵入できず受精することができません。人工授精を行うと、子宮にダイレクトに精子を届ける補助ができるので、抗体があっても膣をショートカットして進むことが可能です(※1)。
ただ、抗体が多いと人工授精でも妊娠が難しい為、高度不妊治療(体外受精、顕微授精)を勧められる場合もあります。この検査は保険適用とならず自費の為、検査費用は約1万円かかります。
(不妊治療については以下の記事も参考にしてください。)
男性起因による不妊の場合の人工授精
男性起因による不妊の場合、その原因は精子の不良である事がほとんどです。血液検査や精液検査などで判明する事が多く、場合によっては手術となる場合もあります。不妊の原因は女性側にあると思われがちですが、原因は女性不妊4割、男性不妊4割、不明2割といわれており、意外にも男性不妊も多いものです(※1)。
男性不妊にはどのような原因があるのか、また原因究明のための検査と費用について紹介します。
カズヤ先生
産婦人科医
男性不妊の診断がされた場合は、多くの場合は乏精子症などの特発性の疾患であり、漢方療法などの適応になります。 補中益気湯などはよく処方されているお薬の一つです。
男性起因による不妊の場合【精液検査で分かる原因と検査費用】
男性不妊の基本検査で最初に行うのが精液検査で分かる原因と検査費用は次の通り。
精液検査はマスターベーションで採取した精液を遠心分離機にかけ、精子が十分にいるか、運動はしているか、精液量は基準を満たしているか、血液が混じっていないかなどを確認します。世界保健機関(WHO)が公開している精液検査の正常値は以下の通りです。
● 精液量:1.5ml以上
● pH:7.2以上
● 精子濃度:1ml中に1500万以上
● 総精子数:1ml中に3900万以上(※3900万未満の場合は乏精子症)
● 運動率:40%以上(※40%未満の場合は精子無力症)
● 奇形率:96%未満(※96%以上の場合は奇形精子症)
● 総運動精子数(総精子数×運動率):1560万以上
あくまでも目安ではありますが、何度か精液検査を実施してもこの基準に当てはまらない時は、治療が必要となる場合があります。
精液検査の検査費用は保険適用であれば約300円から1,500円で、保険適用とならず自費の場合は3,000円から30,000円程になります。費用は病院によってバラつきがありますので、検査を受ける際には事前に病院に確認しておくといいですね。
旦那精液検査
— まい (@s91oh16w071ipWW) December 21, 2018
血液検査は5月にやってるから精液検査のみ。
今まで成績が良くないから、1月の採卵に向けて、一緒に頑張ろう‼︎
男性起因による不妊の場合【生検や造影検査で分かる原因と検査費用】
生検や造影検査で分かる原因と検査費用は次の通りです。
精液検査で「運動している(生きている)精子がいない」「精子そのものが見当たらない」などと診断された場合、精巣から組織を直接採取する生検や精管精嚢の造影検査などが必要になります。病院によって入院の有無や、費用の総額は異なりますが、精子採取手術と造影検査両方受けてかかる費用は、平均すると総額約15万~30万円です。
体への負担が大きくリスクを伴う手術になるので、医師やパートナーとよく相談しましょう。
(男性の不妊治療については以下の記事も参考にしてください。)
人工授精の治療の流れは?
実際に人工授精を行うとなると、「治療はどんな流れなの?」「どんな周期で、どんなタイミングに受診するの?」などいくつか疑問があると思います。排卵のペースによって受診日のタイミングはさまざまですが、基本的には生理期、卵胞期、排卵期、黄体期に分け、各タイミングで受診し、各周期に最適な治療を行います。
人工授精の治療の流れ【生理期(生理開始日~生理7日目)】
生理期(生理開始日~生理7日目)になったら、人工授精周期の開始となります。通院のタイミングは事前に「生理〇日目までに来てください。」と指定される事が多いです。
生理期の流れとしては、まず排卵に向けて卵胞を育てていきます。自力で卵胞が大きくならない人は、排卵誘発剤を使用して大きくなるように育てます。排卵誘発剤を使用する場合には内服薬や注射薬などが用いられます。
人工授精の治療の流れ【卵胞期(生理8日目~生理12日目)】
卵胞期(生理8日目~生理12日目)の治療の流れとしては主に卵胞が順調に育っているか、エコーや採血をして確認します。卵胞が育っていない場合には薬の増量や、再度受診して経過を見ます。
人工授精の治療の流れ【排卵期(生理13日目~排卵日)】
排卵期(生理13日目~排卵日)の治療の流れとしては、いよいよ人工授精を実施します。月経周期が28日サイクルの人の場合は平均して生理14日目に排卵します。人工授精ではより高い妊娠率を狙うために排卵寸前のタイミングで精子を子宮内へ送り込みます。その際にベストタイミングで排卵できるように、人工授精を行う前日に来院して注射などで排卵を促します。
人工授精の治療の流れ【黄体期(排卵後~生理予定日)】
黄体期(排卵後~生理予定日)の流れは、人工授精が終わったら内服薬や膣錠、注射等を使用して着床を補助します。排卵から平均して14日後が次回の生理予定日となり、そのあたりで妊娠判定が行われます。妊娠判定で陰性の場合は次回の周期の人工授精に向けて、またこの一連の流れを生理期からスタートすることになります。
人工授精でかかる費用の総額は?
「人工授精したいけど高いのかな?」「1周期あたりの費用は総額でいくらかかるの?」と費用の面で気になる方も多いと思います。人工授精に関連する費用を紹介します。
人工授精でかかる費用【排卵誘発剤】
自力で卵胞が育たない場合には排卵誘発剤を使用して卵胞を大きくします。排卵誘発剤には錠剤で服用するものと、注射で投与する2種類があります。
費用は保険適用となる内服薬であれば1周期あたり平均で約500円~1,000円になります。注射の場合には1回あたり平均で約2,000円、排卵日までに10回程注射しますので総額で20,000円程の費用がかかります。
人工授精でかかる費用【卵胞チェック時のエコー】
卵胞の大きさを調べた時のエコー写真貰ってたみたいなんだけど(今気づいた)赤ちゃんのエコー写真みたいでちょっとだけ嬉しくなったあとかなり悲しくなった....ちゃんと赤ちゃんが写ってるやつ欲しいなぁ。
— まめ子@1人目妊活🐣1/12初移植 (@ma__me__ko_) June 20, 2018
そしてDとD1って右と左って意味???同じもの? pic.twitter.com/Jp5Hd2iW9F
卵胞が大きく育っているか、通院の度に卵胞チェック時のエコー検査で卵巣の状態を見ます。保険適用の場合は1回あたり約1500円ですが、保険なしだと2,500円~5,000円程度の費用がかかります。
人工授精でかかる費用【人工授精実施時】
人工授精実施時にかかる費用は、保険の補助が受けられず自費となるため1回あたり15,000円から30,000円の費用が発生します。病院によって設定金額が異なるので、金額には大きく差が出ます。上記の費用内には処置代、エコー代、処置後服用する抗生剤代などが含まれている病院もあります。
人工授精でかかる費用【人工授精後のホルモン剤】
人工授精後には着床を補助するホルモン剤を出される事が多いです。基本的には注射か内服薬ですが、膣錠や貼り薬などの場合もあります。一番使用されているのは錠剤のホルモン剤で、費用は妊娠判定日までの2週間分の処方で約1,000円です。
カズヤ先生
産婦人科医
この時にホルモン補充として使われる製剤は黄体ホルモン製剤になります。 内服薬であればルトラールやデュファストン、膣剤であればルテウム膣錠などが有効で、受精卵の着床を手助けする効果があります。
人工授精でかかる費用【総額】
ここまで一連の流れでの費用を合わせると、人工授精1周期あたりの費用総額は平均して20,000円~50,000円程です。
保険適用と自費の薬のどちらを使用するかや、病院ごとの人工授精の設定金額がいくらなのかで総額の費用は大きく異なります。
(不妊治療に適した医療保険については以下の記事も参考にしてください。)
人工授精にかかる費用を補助する制度はある?
不妊治療を行っている人に対して不妊治療助成金として、都道府県や市町村から不妊治療にかかるお金を補助する制度があります。不妊治療助成金の多くは高度不妊治療(体外受精、顕微授精)を行っている人に対しての補助で、人工授精への補助はない場合がほとんどです。
しかし、最近では少子高齢化の影響で、人工授精に対しても補助をしてくれる自治体が増えてきました。人工授精などの不妊治療をする場合は、自治体に助成金の制度があるかどうか問い合わせてみましょう。
人工授精のリスクは?
人工授精を行うにあたって、総額医療費といった費用面の負担と同じくらい気になるのが、身体的なリスクです。高度不妊治療(体外受精、顕微授精)に比べれば簡単な流れで出来る人工授精ですが、人工授精にもいくつかのリスクが挙げられます。いくつかの例を紹介します。
人工授精のリスク【細菌感染】
人工授精では、まれに重大な細菌感染を発症する恐れがあります。ただし、細菌感染に対しては人工授精後に処方される抗生剤をきちんと服薬すれば、リスクをかなり抑えられます。感染する可能性としてはごくわずかです。
人工授精のリスク【排卵誘発剤使用での多胎発生】
排卵誘発剤使用での多胎発生は、内服薬の排卵誘発剤で平均して5%、注射薬だと平均して20%もの確率で発生します。妊娠を望む人にとって多胎は嬉(うれ)しい事かもしれませんが、多胎は単胎よりも妊娠中や出産時のリスクが高いものです。排卵誘発剤を使用する場合には多胎のリスクもしっかり頭に入れておきましょう。
カズヤ先生
産婦人科医
多胎リスクに関しては、不妊治療を行っている産婦人科医により様々な対処法があります。 主席卵胞だけをうまく育てるために、低刺激法といって卵胞を刺激するためにFSH製剤を少量から開始する方法などをして、できるだけ多胎リスクを避けていきます。
人工授精のリスク【服薬による副作用】
排卵や着床を補助する薬など服薬による副作用としては、一般的にホルモン剤が使用される事が多く、人によっては副作用として吐き気、頭痛などの症状があります。あまりにも副作用がひどい場合には、医師に薬を変更できないかなど相談しましょう。
(不妊治療中の服薬については以下の記事も参考にしてください。)
デュファストンの副作用で体が思う通りに動か無い(>人<;)あと3日もしたら慣れるはずなんだけどいつも始めだけ辛い〜💦
— 枝豆@妊活中 (@edamame_salt8) September 28, 2017
人工授精のリスク【ストレス】
人工授精周期は妊娠へのプレッシャーにより精神的ストレスになりがちです。不妊専門病院では心理カウンセラーが在籍していることもあるので、治療に疲れたり悩んだりした時には、一人で抱え込まずに相談しましょう。
人工授精はパートナー間でしっかりと相談してから
人工授精は必ず1回で妊娠出来るとは限りません。そのため治療期間が長くなり、パートナー間で意見が合わなくなって衝突することもあるでしょう。人工授精でかかる費用も負担となり、辛(つら)い治療になるかもしれません。
お互いに納得して助け合いながら治療を行っていくためにも、人工授精を行う前にはしっかりパートナーと話し合い、計画を立ててから人工授精に臨みましょう。
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